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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(オ)1069号 判決

上告人

山田辰義

右訴訟代理人

田中義信

被上告人

高橋寿一

右訴訟代理人

吉田保徳

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

上告人は、原審において、請求の原因として、(1) 本件土地は、もと訴外山田辰尾の所有であつたところ、上告人は、昭和四八年二月一〇日右山田から右土地を賃料一か月一万五〇〇〇円、期間二〇年の約定で賃借した、(2) 被上告人は、昭和五三年一一月一四日競落により本件土地の所有権を取得したのに伴い右土地の賃貸人としての地位を承継したにかかわらず、上告人の本件土地の賃借権については登記を経由していないから被上告人に対抗できないということを理由に上告人の賃借権を認めず、かつ、上告人からの賃料の受領を拒んでいる、(3) しかし、上告人は、本件土地を賃借してその引渡を受けて以降、右土地で庭園等に使用する各種花木を幼木から栽培して肥培管理をしており、右土地は農地法にいう農地にあたるから、上告人は本件土地の賃借権をもつて被上告人に対抗することができる、と主張して、被上告人との間で上告人が本件土地について賃借権を有していることの確認を求めた。

原審は、これに対し、上告人において本件土地が農地である根拠として主張するのは、上告人が右土地で庭園等に使用する各種花木を幼木から栽培しているというのであるが、このような栽培は作物を肥培管理しているとはいえないので、右土地が農地である旨の上告人の主張は主張自体採用することができず、したがつて、かりに上告人が前記山田から本件土地を賃借したとしても、その賃借権をもつて被上告人に対抗することができないものと判断し、上告人の本訴請求を棄却した。

しかし、農地法二条項にいう農地とは、「耕作の目的に供される土地」をいうのであつて、その土地が農地であるかどうかは該土地にいわゆる肥培管理が施されているかどうかによつて決定すべきものであるところ、上告人は、本件土地で庭園等に使用する各種花木を幼木から栽培して右土地に肥培管理を施していると主張しているばかりでなく、庭園用の花木を幼木から栽培するには施肥、薬剤散布、除草等の作業を行うものであることは容易に窺われるのであるから、かりにそのとおりであるとすれば、本件土地は、農地にあたると認められる余地があるといわなければならない。したがつて、原判決が、これらの点について何ら審理判断することなく、本件土地が農地である旨の上告人の主張は主張自体採用できないと判示して上告人の請求を棄却したのは、農地についての法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽の違法をおかしたものというべく、右違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、叙上の点についてさらに審理を尽くさせるのを相当とするから、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木下忠良 栗本一夫 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告人の上告理由

一、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。すなわち上告人は原審において、本件土地は上告人において庭園等に使用する各種花木を幼木から栽培しているものであるが右は地力によつて自然に成長を待つ植林と異り土地に労資を加えて作物を肥培管理しているものであるから農地法第二条にいう農地である旨主張したが原審は「控訴人(上告人)が右土地で庭園等に使用する各種花木を幼木から栽培しているにすぎないことが明らかであり、このような栽培は作物を肥培管理しているといえないので右土地は農地でない」旨判示して上告人の控訴を棄却した。右判示の趣旨は対象が各種花木であるが故に農地に該当しないと解しているが、右解釈は農家の現状を理解しない解釈である。

農地法が国民の主食である米麦生産の確保と、それに携る農民の生活安定を目的とすることは疑いないところであるが、社会の発展とくに経済基盤の変化及び需要の多様化は農業構造の変化をもたらす結果となつた。

そこで現在の農家は農地法が理想としている専業農家の基盤がくずれ米麦生産のための耕作の外農地はそ菜類の栽培をはじめ草花の栽培や果樹園の栽培更には茶畠などの栽培まで行つているのが現状であるがこれらも農民の生活安定と需要の充足のため農業の範疇に入るものとしてこれを保護しなければならないことは言うまでもない。

このような観点からするならば庭園等に使用するとはいえ農薬経営の一環として本件の如く各種花木を幼木から栽培する場合もそれが肥培管理している事実があればこれを農地と解すべきであるが、原判決は、作物が各種花木であるが故に農地でないと判示したのは、農地の解釈を誤つたものというべきである。

二、原判決に影響を及ぼすべき審理不尽の違法がある。

すなわち、原判決は作物の対象が各種花木である一点をもつて農地でない旨解したため更にこれが肥培管理をしているかどうかを審理することなく上告人(控訴人)の控訴を棄却したが、もし作物の対象が各種花木の幼木栽培の場合も農地認定の一要素であるとするならば、更にこれに肥培管理の有無を審理したうえで農地であるかどうかを認定すべきであつたのである。

この点原審には審理不尽の違法があつた。

以上のいずれの点よりするも原判決は違法であり、かつこれが判決に影響を及ぼすべきことは明らかであるので破棄さるべきである。右のとおり上告理由を提出する。

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